- 美味しい和牛を食べるならA5ランクを選べばいいの?
- A5ランクの牛が一番おいしいんだよね…?
- せっかく高いお金を出すならおいしい和牛を食べたい!
テレビや雑誌で「A5ランクは最高級!」と紹介されている場面をよく目にします。たしかにA5ランクの肉は最高級で間違いないですが、「おいしい和牛」かといわれるとそうではありません。
わたしは肉を切る仕事を6年以上継続していて、現在働く精肉店では贈答用を中心に和牛を切っています。
贈答用ということもあり、質が良い牛を仕入れることが多く、A5ランクの和牛を何度も捌いてきました。
また「全国の和牛を食べてみたい」という想いから、毎月通販サイトでブランド和牛を購入してレビューを書いています。
そんな和牛に囲まれた生活をしているわたしの経験や実体験を交えながら…
この記事では、牛肉の格付方法とおいしい和牛の選び方について徹底解説します。
この記事を読んで、どのようにして「A5ランクが決まるのか」「おいしい和牛の選び方」を知ってから、正しい知識でおいしい和牛を食べましょう!
A5ランクとは「食べれる牛肉がたくさん取れて、見た目が美しい牛」のこと
牛肉の格付は、日本食肉格付協会によって北海道から沖縄まで全国126か所(事業所119・分室7か所)で行われています。
格付けはアルファベット(A~C)と数字(1~5)で評価され、アルファベットが「歩留り等級」、数字が「肉質等級」を示しています。
等級については後ほど詳しく解説しますが、簡単にまとめると以下のとおり。
- 歩留等級
- 牛から皮、骨、内臓などを取り去った枝肉の割合の大きさを示している。同じ体重の牛でもたくさんの肉がとれる牛がA評価になる。
- 肉質等級
- 「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉の締まり及びきめ」「脂肪の色沢と質」の4つの項目から見た目の評価が行われる。数字の1~5で見た目が評価され、最も美しい見た目の牛が5になる
A5ランクの牛とは「牛肉として食べれる肉がたくさん取れて、見た目が美しい牛」のことです。
歩留等級は「食べれる肉の量が多い」こと
歩留等級は、枝肉(生体から皮、骨、内臓などを取り去った状態)から無駄なく肉が取れる割合を表したものです。
アルファベットのA~Cの3段階で評価され、歩留等級の格付けは以下の計算式に当てはめて行います。
歩留等級の計算方法
歩留基準値67.37+「ロース芯の面積」+「0.667×バラの厚さ」-「0.025×半丸枝肉の重量」-「0.849×皮下脂肪の厚さ」
ただし、肉用種の枝肉には歩留基準値を2.049を加算して計算。歩留基準値の加算対象となる肉用種は、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種及び無角和種の4品種、並びにこの4品種間の交雑牛だけになります。
歩留りの等級区分は、以下のとおりです。
等級 | 歩留基準値 | 歩留 |
A | 72以上 | 部分肉歩留が標準より良いもの |
B | 69以上72未満 | 部分肉歩留が標準のもの |
C | 69未満 | 部分肉歩留が標準より劣るもの |
たとえば、牛が一頭200キロあった場合、食べれる肉の量が144キロ以上あれば歩留Aという評価をもらえます。
歩留等級はあくまで生産者や目利きをする人が気にする指標なので、食べる消費者には直接関係はありません。
肉質等級は「見栄えの美しさ」を評価したもの
肉質等級は数字の1~5で肉の見栄えを評価することを指します。評価内容は以下の4項目です。
- 脂肪交雑
- 肉の色沢
- 肉の締まり及びきめ
- 脂肪の色沢と質
それぞれ解説します。
脂肪交雑
脂肪交雑は霜降り度合いを示しています。B.M.S(ビーフ・マーブリング・スタンダード)という判定基準があり、1~12の数字で評価されます。
5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
ロースの(芯、マキ、えんぴつ)と呼ばれる部位の脂肪交雑がかなり多いもの | ロースの(芯、マキ、えんぴつ)と呼ばれる部位の脂肪交雑がやや多いもの | ロースの(芯、マキ、えんぴつ)と呼ばれる部位の脂肪交雑が標準にもの | ロースの(芯、マキ、えんぴつ)と呼ばれる部位の脂肪交雑がやや少ない | ロースの(芯、マキ、えんぴつ)と呼ばれる部位の脂肪交雑がほとんどないもの |
等級 | B.M.Sナンバー | 脂肪交雑評価基準値 |
5:かなり多い | No.8~12 | 2+ 以上 |
4:やや多い | No.5~7 | 1+ ~ 2 |
3:標準 | No.3~4 | 1– ~ 1 |
2:やや少ない | No.2 | 1 |
1:ほとんどない | No.1 | 0 |
等級5になるには、霜降り度合いがNo.8以上の牛と評価される必要があります。
たとえば以下のような肉は、脂肪交雑がNo.8以上の5の評価を受ける牛です。
断面を見ると、脂肪交雑がかなり多いです。脂肪交雑の評価が高いほど、見た目がどんどん良くなります。
肉の色沢
牛肉色基準(B.C.S)
肉の色沢は、B.C.S(ビーフ・カラー・スタンダード)という判定基準でNo.1~No.7の7段階で評価されます。
等級 | 肉色(B.C.Sナンバー) | 光沢 |
5:かなり良い | No.3~5 | かなり良い |
4:やや良い | No.2~6 | やや良い |
3:標準 | No.1~6 | 標準 |
2:標準に準ずるもの | No.1~7 | 標準に準ずるもの |
1:劣るもの | 等級5~2以外のもの | 等級5~2以外のもの |
肉の色が明るくて、光沢のある牛に高い数字がつけられます。
以下の肉はわたしがお取り寄せした神戸牛のA5ランクのサーロインステーキ。
肉の色が明るく鮮やかです。上記の肉に近いものが等級が高いと判断されます。
肉の締まり及びきめ
肉の締まり及びきめは、以下のように見た目で判断されます。
等級 | 締まり | きめ |
5 | かなり良い | かなり細かい |
4 | やや良い | やや細かい |
3 | 標準 | 標準 |
2 | 標準に準ずるもの | 標準に準ずるもの |
1 | 劣る | 粗い |
きめが細かいと肉の見栄えが良くなり、柔らかい食感にもなる大事な評価基準です。
脂肪の色沢と質
牛脂肪評価基準(B.F.S)
脂肪の色沢と質のB.F.S(ビーフ・ファット・スタンダード)といわれる判定基準は1~7の7段階。脂肪の色が白、またはクリーム色を基準に判定され、光沢と質を考慮して評価されます。
等級 | 肉色(B.F.Sナンバー) | 光沢と質 |
5:かなり良い | No.1~4 | かなり良い |
4:やや良い | No.1~5 | やや良い |
3:標準 | No.1~6 | 標準 |
2:標準に準ずるもの | No.1~7 | 標準に準ずるもの |
1:劣るもの | 等級5~2以外のもの | 等級5~2以外のもの |
肉質等級は上記の4項目で判定され、項目別等級区分の中で最も低い等級に決定して格付けされます。
肉質項目 | 等級 |
脂肪交雑 | 5 |
肉の色沢 | 5 |
肉の締まり及びきめ | 5 |
脂肪の色沢と質 | 4 |
上記のような結果になった場合は、肉の締まり及びきめが4の評価になるので【4等級】です。
歩留等級と肉質等級の合わせて牛の正式なランクが決定します。ランクは全部で以下の15通りです。
等級 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
A | A5 | A4 | A3 | A2 | A1 |
B | B5 | B4 | B3 | B2 | B1 |
C | C5 | C4 | C3 | C2 | C1 |
格付けは歩留等級のアルファベットより、肉質等級の数字のほうが重要です。
数字が高いほど見た目の美しい牛になります。贈答用などの贈るときは肉質等級が4~5を選ぶと霜降りがキレイな肉を贈ることができます。
参考:日本食肉格付協会
A5ランク=おいしいわけじゃない
牛の格付方法は、以下の2つで決まることがわかりました。
- 歩留り等級・・牛一頭から食べられる肉の量を評価したもの。
- 肉質等級・・「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉の締まり及びきめ」「脂肪の色沢と質」の4つの項目から見た目の評価が行われる
格付方法は、見た目の評価で「味の評価」ではありません。A5ランクの牛は、サシが多く脂の甘みが感じられるので、上質なのは間違いないです。
しかし脂が多くて胃もたれしたり、量を食べられなかったりと「おいしい」と感じないこともあります。
牛の格付けは味の評価ではなく、あくまで見た目の評価であることは覚えておきましょう。
おいしい和牛を見極めるためのポイント3選
「では、どんな和牛を選べばおいしいの?」という方に向けて、精肉店で働きながら毎月ブランド牛をお取り寄せしているわたしが、おいしい和牛を選ぶためのポイントを3つ紹介します。
おいしい和牛を選ぶためのポイントは以下のとおりです。
- メス牛を選ぶ
- 素牛で選ぶ
- 肥育月齢が長い牛を選ぶ
メス牛を選ぶ
和牛には「去勢」と呼ばれるオス牛と、メス牛がいますが、おいしい和牛を食べるなら、メス牛を選びましょう。メス牛がおいしい理由は、体の大きさにあります。
旨みがぎゅっと凝縮されるメス牛
体が小さくても大きくても牛の細胞の数に違いはありません。よって体の大きいオス牛のひとつひとつの細胞は体積が大きく、メス牛は小さくなります。
つまり、メス牛の方が同じ100gの肉でも細胞が多く含まれていて、その分旨みがぎゅっと凝縮しているため、おいしい肉になるんです。
同じ条件で育てると体が小さいメス牛のほうが、旨みが強くておいしくなります。
オス牛も男性ホルモンを排除して女性化させたほうがおいしくなるという理由から、生後まもなく去勢されるため「去勢牛」と呼ばれています。
おいしい和牛を食べるなら、以下のメス牛しか認めていないブランド牛を選ぶのおすすめです。
未経産の雌牛(出産を経験していないメス牛)しかいないため、必ずメス牛が食べれます。
他にも自社ブランドとして、メス牛しか肥育していない畜産農家やブランド牛も出てきています。わたしが以前お取り寄せした「いずみ華姫牛」も、メス牛限定でした。
旨みが強くおいしい和牛を選ぶなら、メス牛は必須条件の1つです。
素牛で選ぶ
実は牛がおいしくなるかどうかは、素牛が大きく関係しています。
特に兵庫県産の但馬牛を素牛にしたブランド和牛は高品質で味が良いとされていて、全国で但馬牛を素牛にしているブランド和牛は多いです。(素牛とは生後半年で出荷される子牛。)
但馬牛を素牛にした代表的なブランド和牛は以下のとおり。
日本三大和牛に数えられるブランド和牛のほとんどが但馬牛の子牛から育てられています。
肉のうま味成分(グルタミン酸、イノシン酸、アミノ酸など)を多く含む但馬牛が、各都道府県で安全で良質な飼料と、深い愛情をもって肥育されることで美味しい牛肉が作られます。
どのブランド牛にするか悩んだときは、但馬牛が素牛でありながら、メス牛限定である松阪牛を選んでおけば間違いありません。
以下の記事で松阪牛をレビューしています。松阪牛を気になる方は一度読んでみてください。
→【極上の霜降り】特選松阪牛専門店やまとの肩ロースすき焼きを徹底レビュー!
肥育月齢が長い牛を選ぶ
牛は育てる期間が長ければ長いほど、旨みが増しておいしい牛になります。
基本的に和牛で最も有名な黒毛和種の去勢牛(去勢した雄牛)は、サシが入って肉質の良くなる約28ヵ月齢(2年4ヵ月)前後に出荷され、メス牛の場合は、去勢牛よりも2ヵ月くらい長く育てられて出荷されます。
上記の期間よりも長く育てることによって、旨みが増したおいしい和牛になりますが、長く育てられる和牛は少ないです。
なぜ長く育てられる和牛が少ないのか
長く育てられる和牛が少ない理由は、飼料代と手間賃がかかりすぎるから。売れたときの価格と飼料代や手間賃を天秤にかけたときに同じぐらいだと儲けになりません。儲けにならないと経営ができないため、時間をかけられないのが現状です。
時間をかけられない現状がある中でも、ブランド牛の中には肥育月齢がブランドとして認められるための定義になっている牛もいます。
- 米沢牛
- 生後月齢32ヶ月以上のもので公益社団法人日本食肉格付協会が定める3等級以上の外観並びに肉質及び脂質が優れている枝肉とする。参考:米沢牛の定義/米沢牛銘柄推進協議会 (yonezawagyu.jp)
わたしも実際に米沢牛を購入して食べてみたが、濃い味わいと柔らかい肉質に感動しました。
他にも、個人的にお取り寄せしたことがある尾崎牛やいずみ華姫牛も30ヶ月以上育てられた牛しか出荷されない牛でした。おいしい牛肉を食べるなら肥育月齢が長い牛を探してみましょう!
以下の記事では米沢牛をレビューしています。米沢牛が気になる方は一度読んでみてください。
→【4種類のカルビ】米沢牛専門店の米沢牛懐石カルビ食べ比べセットを徹底レビュー!
おいしい牛肉を食べるならオレイン酸にも注目!
最近では消費者の好みが変化してきたという観点から、オレイン酸を多く含む和牛が注目されています。
- オレイン酸とは
- 牛肉に多く含まれる不飽和脂肪酸の一つ。オリーブオイルに多く含まれる成分としてよく知られています。
オレイン酸には血中コレステロールを減らして生活習慣病を予防するといった、身体にいい影響があるとされており、注目されている成分です。
オレイン酸が多く含まれる肉は「甘味がある」「溶けるような口当り」と言われています。
オレイン酸が低い温度で溶けだすという特性から、口の中に入れた瞬間に脂肪が溶けだすため、柔らかな食感になります。
実際に2022年10月6日~10月10日に開催された5年に1度の和牛オリンピック(全国和牛能力共進会)では、新たに「脂肪の質」を評価する出品区を新設しました。オレイン酸を計測して評価することで、見た目だけでなく「おいしさ」も評価しようとする動きが高まっています。
近年では、オレイン酸含有量を銘柄の規格基準に設定したブランド牛「鳥取和牛オレイン55」というブランド牛も出てきていて、今後おいしい和牛が増えてくることに期待しかありません。
参考:食肉通信社
海外の牛肉にも格付けがある
日本だけでなく海外の和牛にも格付があります。ここではアメリカの格付け基準について詳しく解説します。
アメリカでは米農務省(USDA)の検査官により、以下の4つの要素
- 牛の種類
- 成熟度
- サシ(霜降り)の入り具合
- 性別
などを基準に、グレードが決められます。
アメリカでは日本でいうところの肉質等級を品質等級として評価しています。
- 品質等級とは
- 牛肉が調理された際の味わいを予測するもの。
柔らかさ・ジューシーさ・風味などを含む食味の予測です。等級が高ければ高いほど、その食肉は柔らかくジューシーであり、バターを思わせる牛肉の脂肪分独特の風味を持っているということになります。
USDA品質等級には8つのグレードがあります。
- プライム
- チョイス
- セレクト
- スタンダード
- コマーシャル
- ユーティリティー
- カッター
- キャナー
8つの中でも、日本に流通しているのは上位3つです。
- プライム
- チョイス
- セレクト
日本に流通しているアメリカ産の牛肉は品質が良いものばかりです。プライムとシールが貼ってあるアメリカ産の牛肉もスーパーなどでよく見かけます。質がよい輸入牛を食べるなら、アメリカ産のプライムを選びましょう。
実はアメリカで最高級といわれるプライムは、黒毛和牛でいうところのA2ランク。日本では霜降り肉とは呼ばれないレベルなんです。
いかに日本の生産者の方たちの肥育技術が高いのかがわかります。
参考:米国食肉輸出連合会
A5ランクの中でもおいしい和牛を食べましょう
A5ランクの和牛は、おいしさの十分条件ではありません。しかし高級感溢れる美しい見栄えは、食欲をそそり、特別感を演出してくれます。
日本の和牛を語る上で、格付けは切っても切り離せない関係です。A5ランクの中でもおいしい和牛を食べるなら、以下の3つをポイントを抑えておきましょう。
- メス牛を選ぶ
- 素牛で選ぶ
- 肥育月齢が長い牛を選ぶ
最近では肉のおいしさを評価する「オレイン酸」も注文されていて、見栄えよりも味に力を入れる動きも高まっています。まだまだ進化を続けるこれからの日本の和牛に期待が高まります。
せっかく高いお金をかけるなら、とびきりおいしいブランド牛を食べて幸せな気持ちになりましょう。
以下の記事では、今までわたしがお取り寄せしてきたブランド和牛を紹介しています。おいしい和牛を探している方は、ぜひ一度のぞいてみてください。