日本で飼育されている和牛の中でも、寒い地域でしか肥育されていない「日本短角種」
「名前だけは聞いたことあるけど、詳しくは知らない」という方は、多いのではないでしょうか。
縄文時代から生息している「南部牛」がルーツだといわれており、歴史が深い品種です。しかし日本の和牛の中では、1番若い品種という変わった特徴があります。
この記事では、希少な和牛である日本短角種の特徴や歴史まで徹底解説します。
日本短角種に携わっている方から、教えていただいた内容も紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
日本短角種とは
日本短角種とは、北海道を中心とした北東北で肥育されている赤身が旨い和牛です。
明治4年以降、東北地方の在来種である南部牛と、アメリカのショートホーン種と呼ばれる牛を交配したのが現在の品種。
夏は牧草を食べて、冬は牛舎で過ごす「夏山冬里方式」といわれる肥育方法を採用しています。
現在肥育されている日本短角種は約8,500頭。日本で肥育されている和牛の0.5%しかいない希少な品種です。
日本短角種の特徴
日本短角種の特徴は、以下の2つです。
- 夏山冬里方式で肥育されていること
- 他の品種に比べて体が大きいこと
夏山冬里方式とは、春から秋の半ばまで広い牧草地に牛を放ち、冬は牛舎で肥育する方法です。
短角牛たちは牧草地を歩きながら、お腹が減ったら牧草を食べ、満たされたら牧草で眠ります。自然のサイクルによってのびのびと育つため、牛にストレスがかかりません。
豊富な牧草を食べながら牧草地を走り回ることで、身が引き締まり、旨みの詰まった肉質となります。
また日本短角種は、和牛の中でも大きな体格をしています。
以下は和牛4品種の体の大きさと、体重を比較した表です。
品種 | 日本短角種 | 黒毛和種 | 褐毛和種 | 無角和種 |
体高 | 130cm | 130cm | 133cm | 128cm |
体重 | 590kg | 465kg | 557kg | 580kg |
表から日本短角種の体重が、1番重いことがわかります。一般的に見かける黒毛和種とは違い、赤みがかった茶色の毛も日本短角種の特徴です。
日本短角種の歴史
日本短角種は、縄文時代から日本に生息していた「南部牛」が祖先だと考えられています。
現在は和牛4品種の一つとして登録されていますが、日本短角種を乳業と肉用のどちらの牛として育てるか、考えられていた時期があります。肥育目的を明確にしない長い期間を得て、1943年に登録を開始。
他の3品種は1944年に和牛の固定種として認められていましたが、日本短角種が正式に登録されたのは、13年後の1957年となっています。
歴史は深い日本短角種ですが、和牛の中では1番若い品種です。
日本短角種の味わい
日本短角種の味わいは、牛肉本来の香りと旨みを堪能できる赤身肉です。
放牧で草を食べて育つため、身が引き締まり旨みが詰まった肉となります。
しかしサシがほとんど入りません。とろけるような食感や脂の甘みを楽しみたい人には向いていないでしょう。
「ヘルシーな和牛を食べたい」「脂がキツくなってきたな」そんな方におすすめな和牛です。
日本短角種を肥育されている方に魅力や特徴を聞きました
今回記事を作成するにあたって、岩手県岩泉町地域おこし協力隊で日本短角種を育てている方に、短角牛の魅力や特徴を聞きました。
お答えいただいた内容は以下のとおりです。
- 日本一の赤身を生産する和牛だと思う
- これからの畜産業を考えると日本の宝になると感じている
- 夏山冬里方式は東北に適した飼養方法で、農家さんが長年守ってきた大切な地域資源
- 黒毛和牛同様に焼いたときに和牛香を感じる
- 味の濃さが魅力でもっと食べたくなる
文面からも短角牛に対する熱い想いが伝わりました。「長年牛飼いをしてきた自分でも短角牛の持つポテンシャルに驚かされる」と、言っておられたので、今後わたしも日本短角種に注目していきたいと思います。
日本短角種のブランド和牛を紹介
ここでは、日本短角種の代表的なブランド和牛を5つ紹介します。
- いわて和牛
- いわていわいずみ和牛
- 八甲田牛
- かづの牛
- えりも短角牛
日本短角種を味わってみたい方は、ぜひ参考にしてください。
いわて短角牛
岩手県の自然と風土の中で育ついわて短角牛。認められるには以下の基準をクリアしなければなりません。
- 岩手県産の和牛であること(日本短角種に限る)
- 格付基準において、肉質等級A・B2等級以上であること
- 生まれてからと畜までの期間において、飼養期間が最長かつ最終飼養地が岩手県内であること
脂肪分が少ないヘルシーな赤身で、噛みしめると旨みが広がる味わいが特徴です。
いわていわいずみ短角牛
日本三大鍾乳洞の一つである「龍泉洞」がある岩手県岩泉町。
良質な水の産地として知られる場所で、いわていわいずみ短角牛が育てられています。
夏は親牛と一緒に大自然の放牧地で、のびのびと育ちます。良質な粗飼料と水が「草の爽やかな香りがする」と称される肉質が特徴です。
八甲田牛
八甲田山麓の大自然でのびのび育つ八甲田和牛。ブナ・ミズナラなどの原生林が広がる牧場で育ちます。
八甲田牛の定義は以下のとおり。
- 八甲田山麓で育った日本短角種の去勢または雌の牛
- 格付等級2等級以上
- 出荷月齢18ヶ月〜36ヶ月
- 協議会員を通して流通されたもの
自然の旨みをたっぷり含んだ赤身の肉が魅力です。
かづの牛
かづの牛は秋田県を代表するブランド和牛の一つです。
今から約260年前に、金鉱として知られていた「尾去沢鉱山」の鉱石を運搬するために飼われていたと、史実に記載されています。
共進会を実施して品質の改良に努め「かづの畜産祭り」を開催することで、生産者と消費者との交流の場を設けています。
かづの牛の流通は年間50頭程度。
出荷頭数が少なく、鹿角地方で消費されることが多いため、県外不出の牛といわれる和牛です。
えりも短角牛
えりも短角牛は、北海道の中央南端に位置する「えりも岬」で育った牛です。
漁民たちが漁に出かけることができないときの、冬の収入源として飼育が始まった歴史を持ちます。
潮風が非常強いえりも岬の牧草は、塩分やミネラルが豊富です。えりも短角牛は栄養価の高い牧草を食べながら育つため、旨みの強い肉となります。
現在えりも短角牛を肥育している農家は「高橋牧場」の1軒だけ。
高橋牧場は地元の特産品である、えりも短角牛を守り続けています。
まとめ
今回は日本短角種を紹介しました。北海道や岩手、秋田といった寒い地域でしか肥育されていない和牛です。
夏は放牧、冬は牛舎で育てる「夏山冬里方式」で育てられているのは、和牛の中でも日本短角種だけ。
栄養価の高い牧草を食べながら走り回ることで、身が引き締まり旨みの詰まった肉となります。高タンパクでヘルシーな赤身は、脂が苦手な方や、健康志向の方におすすめです。
肉の旨みや濃厚な赤身のコクを味わい方は、ぜひ一度試してみてください。
以下の記事では精肉店で働くわたしが、通販で購入したブランド和牛をレビューしています。
和牛の購入を考えている方は、ぜひ一度のぞいてみてください。